アラームの音で目が覚める、それが上の階の住人のものだとわかるまで時間はかからなかった
そんなに大きな音ではない、不快でもない、電子音が波のように行ったり来たりを繰り返す、優しい調べで心地良い、おそらく携帯アラームであろう振動が、心地よさにより拍車をかける
時刻は6時を少しまわったところだ、上の階の住人はまだ起きない、毛布に包まり目を閉じ、すぐに目を開け手元にあった携帯を開く
いつもは自意識で賑わうタイムラインに誰もいない、誰に向けたものかもわからない呪詛やポエムと、深夜の残骸があるだけだ、その中に自分の呟きも見つけ少し恥ずかしくなる、慌てて拾い上げポケットに入れた、あとで裏アカに呟こう
時刻は6時を30と少し回るころ、上の階の住人はまだ起きない、アラームはまだ鳴り続けている
二度寝の至福を諦め布団から身を起こす、陽はまだ昇りきらない、窓を開けると冷たい空気が身体をなでる
暖を取ろうと火鉢の灰を掘り起こす、昨夜埋めた炭のかけらが僅かに消えず残っていた、空気を燃やす熱が、冷えた手を優しく包み込む
わずかな火種で火を起こす、小さな火種に小さな炭を、なるべく平たく小さな炭を、テントのように並べた炭の隙間から、ゆっくりと息を吹きかけ、時間をかけて火を起こす、上の階の住人はまだ起きない、アラームはまだ、鳴り続けている
息を吹きつつ携帯を開く、かすかに賑わうタイムラインと昨夜のLINEに目を通す、数分前に通知が来ていた、先ほど何もなかったポストに手紙が届いていた気分、内容は、かわいいあの子とデートの約束、返事はどうやらOKのようで、はてさて何を着て行こうか、そんなことを考えているうちに火種から炭に火が移る、移っただけでまだ起きない、放っておけばすぐ消える、放っておかずにまた炭を並べる、ようやく少し大きめの炭を並べ始めたところでアラームの音が止まった、時刻は7時を少しまわったところで、上の階の住人が慌ただしく動き出す、暖を取るには充分すぎる、鋭い熱が肌を刺す
お腹がすいた、何か食べようとようやく僕も動き出す
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